生き抜くために、コミュニティーが辿った信仰の旅
強制収容所においても、戒厳令下やヨーロッパの戦場においても、日系アメリカ人は信仰を頼りに、強制立ち退きや終わりの見えない収容生活、不当な強制送還、家族との別れ、兵役、再定住など、日系という人種や彼らの宗教が国の安全を脅かすと見なされた時代を生き抜いてきました。「経と聖書」展は、苦難の旅の中にあった日系アメリカ人コミュニティーを絶望から救うため、宗教が果たした役割を探ります。
「経と聖書」展は、唐突に悲痛な立ち退きに直面した人々の物語を、彼らが収容所へと携行した祈祷書や宗教書、精神を生かし続けるために自らの手で作った仏像や十字架、祭壇など、目を見張る物の数々を通して伝えます。展覧会の中心となるのは、ハートマウンテン強制収容所の墓地から掘り出された法華経の言葉が墨書された経石や、救世軍の北地満寿夫大尉がポストン強制収容所に収容されていた間に肉筆で記した注釈つきの二カ国語聖書をはじめとする収容所で編まれた聖典です。
ダンカン隆賢ウイリアムズとエミリ・アンダーソンが共同でキュレーションを行ったこの展覧会は、日系アメリカ人が鉄条網の中で、戒厳令下で、そして戦場で生き延びていくために、仏教とキリスト教のコミュニティーがどう心の拠り所となり、希望を与え、慈悲の心を教えてきたのか、そのさまざまな道のりを紹介します。
ダンカン隆賢ウイリアムズは、 アメリカ研究&エスニシティーの教授であり、南カリフォルニア大学(USC)宗教学部長、USC 伊藤真聰日本宗教・文化研究センターのディレクターを務めています。1993年には曹洞宗の僧侶として出家し、博士号を取得したハーバード大学で大学付きの僧侶として勤務しました。近著に『アメリカンスートラ:第二次世界大戦における信仰と自由の物語』(ハーバード大学出版局、2019年。2022年グロマイヤー宗教賞受賞作、「LAタイムズ」紙ベストセラー)。その他の著書に『禅の向こう側』(プリンストン大学出版局)、編書に『ハパジャパン:歴史、アイデンティティ、混血/混血日本人の表現』(カヤプレス)、『アメリカ大陸の一世仏教』(イリノイ大学出版局)、『アメリカ仏教』(ラウトレッジ/カーゾンプレス)、『仏教とエコロジー』(ハーバード大学出版局)があります。ウェブサイト:duncanryukenwilliams.com
エミリ・アンダーソンは、全米日系人博物館のプロジェクト・キュレーターであり、専門は近代日本。2010年、UCLAで日本近代史の博士号取得後、2010年から2014年にかけてワシントン州立大学(ワシントン州プルマン)日本史助教授、また2014年にはオークランド大学で博士研究員として勤務しました。著書に『近代日本におけるキリスト教』(ブルームズベリー、2014年)、編書に『日本と植民地下の朝鮮における信仰と実践』(パルグレイブ・マクミラン、2017年)があるほか、日本と太平洋地域における宗教と帝国主義に関して多数の記事や書籍の一部を執筆しています。また、共同キュレーターを務めた「ボイルハイツ:土地の力」展(JANM、2002〜2003年)、「人を食べる:神話と現実」展(サンディエゴ人類博物館、2015年〜)をはじめ、博物館における展示の企画・実施にも数多く関わってきました。
「経と聖書:信仰と日系アメリカ人の第二次世界大戦中の強制収容」展は、全米日系人博物館とUSC 伊藤真聰日本宗教・文化研究センターが主催します。またアメリカ合衆国内務省、国立公園局、日系アメリカ人強制収容所助成プログラム、オカダ・ファミリー・ファウンデーションの支援を受けています。
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上: ハートマウンテン経石; gift of Les and Nora Bovee (94.158.1). 1944年、ポストン強制収容所で北地満寿夫大尉によって編まれた「北地聖書」の最初の見開き。courtesy of the Kitaji Family/ /Hoover Institution Library & Archives